ツィント・ウンブレヒト

Zind Humbrecht

オー・ラン県の県庁所在地であり、アルザスの中心地であるコルマール市のすぐ西に位置するテュルクハイム村にドメーヌはある。40代のオリヴィエ・フンブンレヒト------フランス人で初めて、非常な難関といわれるマスター・オブ・ワインの資格を取得------が運営するが、ドメーヌはフンブレヒト、ツィント両家によって1959年とそれ程古くは無い時期に設立された。とはいえ以前から両家はワインづくりに従事しており、特にフンブレヒト家のほうは1600年代の半ばまで家系をたどれる古い家柄。当初、数ヘクタールの地所で始めたドメーヌも今ではグラン・クリュ9ヘクタールを含む40ヘクタールほど------その半分以上は本拠地テュルクハイムにある------の大ドメーヌに成長した。また、1992年にはテュルクハイムにある単独所有畑ヘーレンヴェクのなかに非常に近代的なデザインの醸造所も完成した。

今でこそテロワールに関する議論は盛んだが、ドメーヌではワインづくりの重要な要素として、殊に外テロワールに注目していて、父のレオナールは60年代より優れた土質の畑を次々と購入。オリヴィエに至っては大学で土壌学を専攻したほどと、親子そろって以前からテロワールに一方ならぬ強い関心を寄せている。出来上がるワインがぶどう品種毎にその味わいと個性が異なるのは当たり前だが、フンブレヒトでは加えてテロワール毎の違いが非常に際立っている。グラン・クリュの土壌に限って見てみると、クロ・サンテュルバンはアルザスの最南端に位置する広さ19ヘクタール弱のグラン・クリュ、ランゲンにあるフンブレヒトご自慢のモノポール。340〜470メートルとこの地方でもかなり高い標高、そして最大傾斜68度というほとんど垂直に近い斜面にぶどうは植えられている。真土は火山性の凝灰岩、茶雲母の入った安山岩等からなる土壌。リースリングとピノ・グリがほぼ半々に植えられ、ゲヴュルツトラミネールもほんの少し。非常に酸のしっかりした、ミネラル分に富んだワインが生み出される。

ゴルデールはテュルクハイムの5キロメートルほど南、ゲベルシュヴィールの村にある45ヘクタールほどのグラン・クリュで、ジュラ紀の魚卵状石灰岩が真土に見られ、緩やかな斜面には多くゲヴュルツトラミネールが栽培され、力強さのなかにもデリケートなワインが生まれる。

テュルクハイムのすぐ南にあるヴィンツェンハイム村にあるグラン・クリュがヘングスト。泥灰土と漸新世石灰岩の集積による厚い層に小石が多く混じる土壌では、長期の熟成に向く、強い酸味と肉厚のボディをもったワインが生まれる。フンブレヒトの区画には樹齢50年に達するゲヴュルツトラミネールのみが植えられている。
ドメーヌの本拠地テュルクハイムにあるグラン・クリュ、ブラントは黒雲母等を含む砂質化した花崗岩によるカルシウム質土壌となっていて、繊細で果実香の高いワインを生みだすため、リースリングには最適のテロワールとなっている。フンブレヒトでも1.6ヘクタール全てが、平均樹齢50年を数えるリースリングとなっている。

ドメーヌでは最上のテロワールを揃えているだけではなく、テロワールを反映するぶどう樹の栽培にも最大限の力を注いでいる。そのためフンブレヒトでは、ブルゴーニュはピュリニー=モンラッシェのドメーヌ・ルフレーヴと並ぶ本格的なビオディナミを採用している。また、単にテロワールの体現のみならず長期熟成タイプのワインづくりを目指す、という点でも努力を惜しまず、そのためつくりにおいてはマロラクティーク発酵のガスを残したまま瓶詰めを行なう。これは炭酸ガスにはワインをフレッシュに保つという性質があるためで、ガスを抜けにくくするためにコルク上にワックス・キャップをし、そのうえに金属のキャップシールをするという手間も掛かるが、1997年ヴィンテージから開始した。

このようにして生まれるフンブレヒトのワインだが、2001年ヴィンテージより甘辛目安をラベル右下に表示するようになった。残糖分の数値だけで厳密にクラス分けしたものではなく、甘酸とアルコール度数、それにボディ等、ワイン全体のバランスから5段階に分けている。

  1. はリットル中の残糖分が6グラム以下という、エクストラ・セックとでもいうべき極辛口のワインでミュスカ、それにヘーレンヴェグのリースリング、ピノ・グリ等。
  2. 残糖分10数グラム以下の、まろやかな辛口からほのかな甘口に仕上がっているもの。
  3. フンブレヒトの得意とする甘口仕上げだが、残糖分も20数グラムほどと極甘口ではない。
  4. 残糖分30数グラムから40数グラムと極甘口のタイプ。
  5. ヴァンダンジュ・タルディヴとセレクシヨン・ド・グラン・ノーブル。
    ヴァンダンジュ・タルディヴでリットルあたり70〜80グラム以上、グラン・ノーブルになると100グラムを優に超え200グラムにせまるものまであるという超ヘヴィー級。しかし酸も十分にあるため、そのバランスの見事さはまさにネクタール。そしてこれらのワインに共通するのは風味、ボディともに力強く、しっかりした酸に支えられた構成という点だが、若いヴィンテージのワインの場合バランスがとれるのは抜栓してから2日目以降という具合で、ともかくそのポテンシャルの高さには驚されるばかり。

テロワールだけでなく、栽培、醸造に関しても、常により優れたワインを生む方法を模索しているフンブレヒトだが、最後にヴァン・ド・ターブルをご紹介したい。これだけの水準の高いドメーヌなのにヴァン・ド・ターブル?と思われるかもしれないが、以前のピノ・ブランに連なるアイテムで、ぶどうはピノ・オーセロワにピノ・ブラン、それにシャルドネ種を使用。シャルドネ種はACアルザスで認められていないため、"ツィント"という名称でヴァン・ド・ターブルとしてリリースを始めた次第。